昨今は飲食店をはじめ、さまざまな業界でカスタマーハラスメントが問題となっています。カスタマーハラスメントが悪化すると、業績悪化や従業員の離職などの問題につながりかねないため、早急に対応しなければなりません。
しかし、いざ対策や対応をしようと思っても、具体的に何をすればよいかわからない方も多いでしょう。本記事では、事業主の方向けに具体的な対策や、注意すべきポイントなどについて解説します。ご興味のある方はぜひ最後までご覧ください。
カスタマーハラスメントとは

カスタマーハラスメントとはカスタマー、つまり顧客によるハラスメント行為全般のことです。ハラスメント行為に該当するものとして、従業員サイドに非がないにもかかわらず金品を要求する、落ち度があった場合でも脅迫や、非常識な言動で要求を押し付ける行為などが挙げられます。
そんな顧客の各種問題行為に関する基本情報は、以下のとおりです。
不当要求と正当なご意見の違い
カスタマーハラスメントを知るにあたって、まずは混同されやすい不当要求、および正当なご意見との違いについて解説します。不当要求とは、サービスや商品に問題がある場合に金銭や利権などの経済的利益を供与させるために過剰なサービスを求める行為であり、根底にあるのは「要求」です。
一方のカスタマーハラスメントは、顧客側のサービスや対応に問題があったとき、明らかに過剰な罵詈雑言を浴びせる、暴力に訴えるなどの行為のことで、根底には「嫌がらせ」の意思があります。
そのため、不当要求はあくまで妥当性を欠いた対応を求める行為、そしてカスタマーハラスメントは嫌がらせを目的とした妥当性のない迷惑行為と区別できます。
また、クレームこと正当なご意見は、商品の不具合やサービスの不手際などが発生した際、商品の交換や対応の改善などの要求をすることであり、カスタマーハラスメントとはまったく異なる存在といえます。
両者は企業や従業員個人の成長につながる意見か否か、また建設的な話し合いをする意思があるか否かで見極めが可能です。
対応不可能な要求
顧客による悪質な行動にはさまざまな特徴がありますが、そのなかでもわかりやすいのが対応不可能な要求です。以下は、厚生労働省が発表した「カスタマーハラスメント事例集」 に記載されていた、実際に発生した対応不可能な要求の例になります。
- サポートデスクに対して「徹夜で明日までにバグを開発チームと直せ」「2,000万払え」などの過剰な要求を行う
- 顧客にプリペイドカードの返金を要求され、従業員が店舗で返金できない商品である旨を説明したところ「店長を出せ」「店長権限で返金しろ」など同じ内容で2時間以上詰問
- 顧客が宿泊のたびに客室の清掃不備を指摘し、客室のグレードアップや顧客の前での清掃を要求
いずれも従業員や企業の努力だけでは対応できない要求であり、それに対して顧客側は理不尽ともいえる暴言を吐いています。また、従業員に土下座を強要する、営業時間外の深夜や早朝に居宅への訪問を求めるのも、顧客による悪質な行為です。
暴力的な行動・言動
暴力的な行動や言動も、顧客による悪質な行為の特徴です。以下は、暴力的な行動や言動など、実際に発生したトラブルの例になります。
- 顧客がレジの接客態度が悪いことを理由に従業員を呼びつけ、従業員が到着すると胸ぐらを掴み引きずったうえで「俺は人を殺したことがある」などと発言し、暴力を振るった
- 従業員が顧客にすぐに対応できない場合に大声をあげて威嚇した
- サポートデスクに対して、顧客が「殺すぞ」や「家に火をつけるぞ」などの脅迫にあたる発言を行った
- 駅員がホームの巡回中、点字ブロックの内側で撮影している旅客を発見し、注意喚起をしたところ、顧客に「うるさい」「邪魔、どけ」などと暴言を吐かれたあげく、肘のあたりで突き飛ばされた
暴力的な行動や言動は、従業員の心身に深刻なダメージを与えます。そのため、場合によっては威力業務妨害や脅迫などの罪に該当する可能性も高いです。
カスハラの主な内容

顧客の問題行為は、企業にさまざまな不利益をもたらす行為です。しかし、なかには正当なご意見との見極めができず、結果的に放置してしまっているケースも少なくありません。
顧客による理不尽な要求や暴力を防ぐためには、どのような行為がカスタマーハラスメントに該当するか知る必要があります。以下では、カスタマーハラスメントの具体的な内容について解説します。順番にチェックしていきましょう。
暴言や脅迫
カスタマーハラスメントの代表的な行為のひとつが、暴言や脅迫です。以下は、具体的な暴言や脅迫の事例になります。
- 「死ね」や「バカ」などの暴言
- 「今から行くから首を洗って待ってろ」や「インターネットでさらしてやる」などと脅迫
- 「ぶっ殺すぞ!」と吐き捨て、カウンターを叩きながら威嚇する
いずれも身体的な暴力ではありませんが、従業員を萎縮させ精神的にも追い詰める許しがたい行為です。実際に暴言や脅迫が原因で、休職や退職に追い込まれたケースもあります。
暴力行為
暴力行為も、代表的な顧客の問題行為です。以下は、暴力行為が行われた具体的な事例になります。
- 従業員の首元を掴み壁に押しつける
- 体当たりや頭突きをする
- 殴りかかったり蹴ったりする
暴力は従業員の身体を直接傷つける行為であり、怪我の度合いによっては長期間働けなくなる可能性もあります。従業員が減ってしまうと業務に支障が出てしまい、経済的な不利益を被る可能性もあります。
執拗な言動
執拗な言動も、顧客による問題行為として扱われます。具体的な事例は、以下のとおりです。
- 商品やサービスに問題がないにもかかわらず、何度も同じ内容のクレームを執拗に繰り返す
- 短時間または短期間で集中して暴言を吐くほか、無言電話を100回数以上繰り返す
- 何度も特定の従業員を呼び出し「無能」「役立たず」などの暴言を吐く
執拗な言動が発生すると、たとえ正当性がなくても従業員は対応せざるを得ません。その結果、本来の業務に支障をきたす、ほかの顧客への対応が遅れてしまうなどの問題につながる可能性があります。
無理難題な要求
無理難題な要求も、代表的な問題行為として挙げられます。具体的な事例は、以下のとおりです。
- サービスや商品に問題があったとして、土下座を要求
- すでに閉店時間になっているにもかかわらず、無理矢理居座りサービスの提供を要求する
- 「安くしろ」といって無理な値下げを要求する
いずれも本来の顧客サービスには明らかに含まれていない要求ばかりであり、ハラスメント行為に該当します。なお、要求を断った結果、暴言や暴力に訴えられたケースも少なくありません。
長時間の拘束
顧客の問題行為のなかには、長時間の拘束も含まれます。具体的な事例は、以下のとおりです。
- 長時間にわたって電話での対応を強要する
- 物理的に店舗に長く留まらせる
- 真夏の炎天下の中、配達員に対し長時間の説教をする
長時間の拘束は従業員を精神的にすり減らすだけでなく、作業時間が不足するため、業務効率の低下を引き起こす可能性が高いです。
罪に抵触する行為
罪に抵触する行為も、カスタマーハラスメントに該当します。具体的な事例は、以下のとおりです。
- 「木刀で後ろから襲う」「家はわかる」「いなければ在宅している家族と待たせてもらう」などと脅迫(脅迫罪に該当)
- 従業員に土下座をさせ、その様子をSNS上にアップロード(名誉毀損に該当)
- 配送に関するトラブルが続いたため、宅配便の営業所長に土下座を強要(強要罪に該当)
刑事裁判にならないような事例でも、民事裁判で損害賠償請求ができるケースもあります。
カスハラを防ぐための対策法
顧客の問題行為には、さまざまな対策方法が存在しています。以下では、具体的な対策方法について解説します。順番にチェックしていきましょう。
カスハラやクレームへの対応マニュアルを事前に共有する
カスタマーハラスメントの防止策として、対応マニュアルの導入が有効です。あらかじめマニュアルによって対応の手順を共有しておくことで、顧客の悪質な行為に対しても毅然とした対応ができます。
マニュアルを作成する場合は、厚生労働省が公開している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」 を参考にするのがおすすめです。そのまま流用できる内容ではありませんが、顧客の悪質行為に関する基礎知識をはじめ、マニュアル作成の際に役立つ情報が多数記載されています。
また、マニュアルの素案が完成したら、必ず弁護士に内容の精査をしてもらいましょう。対応方法によっては、新たなトラブルを引き起こすおそれがあるためです。弁護士に問題の有無をチェックしてもらい、必要に応じて修正や加筆をしてください。
やり取りの記録を取れるようにしておく
顧客とのやり取りの記録は、必ず残しておきましょう。顧客による悪質な行為が発生しても、証拠がなければ対応は困難です。名誉毀損をはじめ、新たな攻撃の口実を与えることになりかねません。
やり取りの記録が残っていれば、顧客の悪質行為が発生した事実を証明でき、適切な対応を取りやすくなります。また、記録を取っていることを普段から周知すれば、各種悪質行為の抑止力にもなるでしょう。
やり取りの記録を残したい場合、防犯カメラの導入がおすすめです。映像と音声の両方を記録できるだけでなく、改ざんや捏造が困難なため客観性の高い有力な証拠になり得ます。
ただし、映像が不鮮明であったり、プライバシーを侵害していると判断されたりした場合、証拠として認められない可能性がある点に注意してください。
1人で対応しないよう徹底する
顧客の悪質行為に対しては、決して1人で対応しないように徹底しましょう。悪質行為に対して1人で対応すると、相手の暴言や脅迫に萎縮してしまい、冷静な判断力を奪われてしまい、適切な対応が難しくなります。
また、周囲に従業員の味方がいない状況は、相手の悪意を増長させ、悪質行為をさらにエスカレートさせる原因になりかねません。その結果、対応した従業員が大きなストレスを負ってしまい、休職や退職してしまうリスクが高まります。
顧客の悪質行為は、個人ではなく組織で知恵と力をあわせて対応することが大切です。そのため、従業員が接客中におかしいと感じた時点で、上司や同僚にSOSを発信できるような体制を整えましょう。
日頃から顧客との信頼関係を築く
日々の接客や対応も、顧客の悪質行為やクレームを減らす重要な要素として挙げられます。
とくに大切なのが、顧客との対等な関係の構築です。日本では「お客様は神様」という言葉があり、顧客第一主義を掲げる企業も少なくありません。
そして、従業員に対して威圧的な態度を取る顧客の多くは、この言葉に胡座をかいていることが多いです。しかし、顧客と従業員の間に立場の上下は存在しないため、顧客が威圧的な態度をとっていい理由にはなりません。
また、過剰なサービスを提供することで顧客の満足度を維持できなくなり、顧客の悪質行為を招くケースもあります。顧客第一主義をやめて、対等な関係を構築すれば、顧客による悪質行為を未然に防ぎやすくなるでしょう。
カスハラに対して事業主が気をつけるポイント
カスタマーハラスメントを防ぐにあたって、事業主が注意すべきポイントが存在します。具体的な注意点は、以下のとおりです。
従業員への安全配慮義務
従業員に対して、事業主は安全配慮義務を徹底しましょう。安全配慮義務とは、労働契約法の第5条 で定められている企業や組織が従業員の安全に配慮する義務のことです。企業や組織が安全配慮義務を負うべき従業員の範囲は、法律で細かく定められています。
従業員への安全に配慮すれば、顧客による問題行動から従業員を守ることが可能です。また、企業や組織に対する信頼度が高まり、仕事に対するモチベーションも向上します。その結果、生産性も向上し、企業や組織全体に有益な効果をもたらすでしょう。
ちなみに、従業員に対する安全配慮は法律で定められた義務ですが、違反しても直接的な罰則はありません。そのため、ほとんど義務を果たしていない企業や組織もありますが、その場合は顧客の理不尽な要望の対応をさせられた従業員から訴訟を起こされる可能性が高まります。
訴訟は勝敗にかかわらず、企業や組織の信頼を大きく損ねるため、訴訟以降の営業活動に深刻な影響を与えかねません。たとえ罰則がなくても、企業や組織の義務はしっかり果たしましょう。
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
厚生労働省:労働契約法
労働施策総合推進法
従業員の安全管理にまつわる義務について調べる際、ぜひ参考にしていただきたいのが労働施策総合推進法です。労働施策総合推進法とは、別名パワハラ防止法とも呼ばれる法律で、労働者が生きがいをもって働ける社会の実現を目的に成立しました。
その名のとおり、主にパワハラの防止が目的の法律ですが、顧客の理不尽な要望や行動についても言及されています。2025年 には顧客の迷惑行為に対する対策の義務化が検討されているため、適宜チェックするようにしましょう。
ハラスメントに関する相談窓口を設置
従業員への安全配慮といっても、具体的に何をすればよいかわからない方もいるでしょう。その場合おすすめしたいのが、相談窓口の設置です。
従業員によっては、たとえ問題のある要望であっても、1人で顧客対応ができなかったことに対して羞恥心を抱き、上司をはじめ周囲の人間に相談できない場合があります。相談窓口を設置すれば、従業員のプライバシーを守りつつ、気軽に相談できるようになるでしょう。
また、相談窓口に寄せられた相談を分析することにより、対策を講じられます。
悪質なカスハラは犯罪ということを知る
事業主は、たとえ相手が顧客であっても、要望の内容次第では犯罪行為に該当することを知っておきましょう。万が一トラブルが発生しても、刑事罰が適用される行為について理解していれば、冷静に対応できます。
すべての法律を理解する必要はありませんが、脅迫罪や威力業務妨害罪など、接客において発生しやすい違法行為は把握しておきましょう。
カスハラに対する適切な対応を身につける
顧客の悪質な言動に対して、適切な対応を身につけることも大切です。顧客の無理な要望に立ち向かうためには、事前の心構えと知識が必要になります。
Creative Alphaでは、企業のニーズに合わせてオーダーメイドの体感型研修を提供しており、顧客対応についても学ぶことができます。ご要望に応じた最適な研修プランをご提案しますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
研修を実施する
事業主は、顧客の言いがかりや問題行動に従業員がスムーズに対応できるように、定期的に研修を実施しましょう。研修で具体的なシミュレーションを行えば、実際にトラブルが発生したときも冷静に対応できます。
また、研修をとおして接客スキルを磨くことでトラブルへの対処法を学ぶのみならず、顧客満足度や企業イメージの向上も期待できるでしょう。研修は自社で行う方法と他社に依頼して行う方法があり、前者はより特定の内容に特化した研修を実施しやすい、後者は他社のノウハウを学べるというメリットがあります。
両者の強みを比較して、自社にとってよりよい効果が期待できる方法を選択しましょう。
まとめ
以上、カスタマーハラスメントの概要をはじめ、具体例や対策などについて取り上げてきました。昨今は従業員の権利も重視されるようになり、顧客の無理な要望に対して従業員も徐々に拒否の姿勢を示せるようになっています。事業者も従業員を守るために、各種対策や対応方法を学んでいきましょう。
Creative Alphaでは、研修サービスを提供しています。企業や組織が抱えている課題をヒアリングしたうえで、課題解決に最も効果的な研修を企画しますので、ご興味のある方はぜひお問い合わせください。